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■外伝というほどでもなく

 ちょっと思い浮かんだネタ。SSにするほど長いものでもないので、ささっと書いてみることにした。
 カインの話です。外伝SS10「Dance Party」の後日談みたいな。『Shadow Saga』本編にはあるまじき、ちょっとコメディタッチ(笑)。

 全く、空気が悪いといったらありはしない。
 サーディニア王子リチャードを歓待する宮廷舞踏会の後、カインは自分を取り巻く空気の居心地の悪さに辟易していた。
 それもこれも、不定期的に蒸し返される、あの噂のせいである。

 そう、「カイン女性説」。
 今回の場合は、舞踏会にて公衆の面前でリチャードと踊った上に抱き寄せられてキスをされた、というディテールが特に凝っていたせいで、異様な信憑性を伴ってしまったのが頭が痛い。
 最悪だ。
 噂というのは無責任なもので、尾鰭背鰭胸鰭は当たり前のこと、更にそれがレースやフリルで飾り立てられる始末である。だが、人の口に戸は立てられない。早く、人々がこの噂に飽きてくれればいいものを、と、カインは切実に思う。
「カイン!!」 
 銀の髪の幼馴染、ロナルドが士官学校の廊下を走って、カインに近寄ってきた。
「カイン、あの噂、本当なのか?」
「お前まで真に受ける気か。空から落っことすぞ」
 思いっきり渋面を作り、カインは本当に実行可能なだけに甚だ物騒な脅し文句を口にする。
「いや、それ死ぬから。僕は別にカインが女の子だなんて信じてないし、そこは大丈夫だよ。ちっさい頃、一緒に風呂も入ってた仲じゃないか。だから、カインがどんなに綺麗でも可愛くても、股間にちゃんとアレがついてるの知ってるって」
「……」
 実は、カインを黙らせるのは意外に簡単なのである。
 美少女そのものの外見通り、と言うと、当然本人は怒るが、実際、カインは性に関するあけすけな話になると、途端に及び腰になる。更に露骨な卑猥な話になると、完全に顔を真っ赤にして撤退状況に陥ってしまう。もっとも、あくまでもこれは一時的な手段でしかなく、いたずらにカインの怒りを誘う結果になり得る、諸刃の剣だ。
「でも確かに、おっぱいないのが勿体無い可愛さではあるからなーカインの見た目は。本当に女の子だったら、こんなに苦労しなくて済んだのにな?」
 そう言って、ぽんぽんと肩を叩いてくるロナルドの手を、カインはごみのように払い落とした。かなり、ご立腹の様子である。
「で、お前が俺に確かめたい噂っていうのは何のことだ」
 声音までが冷たく、低くなっていた。が、ロナルドは僅かも気にした様子もなく、あっけらかんと言った。
「ああ、そうそう、カイン、ほらあの、例の外国の王子様」
「サーディニアのリチャード殿下」
 さりげなく突っ込みが入る。
「それ、そのリチャード殿下にプロポーズされたって本当かい?」
「は?」
 思わず、カインは口をぽかんと開け、目を瞬かせる。
 我に返るまで少々の時間を要した後、カインは大きく息を吸い、怒鳴り声を上げた。
「そんなわけあるか! また会えることを楽しみにしてる、とかは言われたけど、あれは向こうが勝手に俺を女性だと思い込んだ上での社交辞令だ!! どうしてそれがプロポーズになるんだ!!」
「いや、だから噂だって。カインが王子様に抱き寄せられて、キスされて、プロポーズされたってさ」
「……途中までは本当だがな」
 どうやら、レースやフリルだけではなく、極彩色の宝石までもが噂には飾りつけられていたらしい。見事に淑女の一丁上がり、だ。
 それはともかく、目撃者多数の事実まで否定したところで仕方ないので、いやいやながらも、カインはロナルドの言葉の最後だけを否定した。すると、ロナルドは黄金に近い琥珀色の目を見開いて、カインに詰め寄った。
「キスされたのか!?」
「連呼するな!!」
 耳元を微かに赤く染めて、カインはロナルドに抗議したが、それはいかにも美しい少女が恥らう様、そっくりだった。不可思議な神秘をたたえた黒紫色の瞳は、艶さえ帯びて見え、彼の、実は男らしい中身を知っているロナルドでさえ、一瞬、妙な心地になる。
「くそっ、あの王子様め。次に会うときがあったら、絶対に男らしい外見になっておいてやる!」
 当のカインは、ぎゅっと拳を握り締め、決意を固く宣言した。
「……気合で、成長をどうにかできるもんかねえ。僕は、カインはこのままでもいいと思うけど」
 ロナルドがぼそりと水を差す。
「うるさい! もう俺は嫌なんだよ、こんな外見! 見ていろロナルド、今にお前の身長も抜いてやるからな!」
 そのロナルドに向かって、カインは指を突きつけた。ロナルドは笑いながら、それをいなした。

 ――これより1年半ほど後、カインの背丈は本当に急激に伸び、ロナルドを抜き去ることになる。外見も決して女性と間違われることがなくなり、それ以降はさすがに女性説を蒸し返されることはなかった。
 そのことにがっかりした人が多数いたとかいなかったとか、それはまた別のお話。

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プロフィール

荒野龍輝

Author:荒野龍輝
 一応、オンライン小説書きと言っていいのか、憚られるのは今に始まったわけでもない今日この頃。活動期と倦怠期の差は、かのシャーロック・ホームズも真っ青の天性の怠け者。
 根っからのヲタクなので、言動がたびたび怪しい。

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